13  母からの電話

 

   〜電波の届かないはずの

    携帯電話が...

 

78才の田舎の母が同居することになる 

新聞を隅から隅まで読むし 政治討論会を楽しみにするようなしっかりした元気な人である 

しかし 

マンション暮らしにはどうしても馴染めず 

山の中に引っ越し姉が同居することになった 

房さんは週末だけ帰ることにした

山の中にある無人駅として新聞に載ったことのある場所で 

夜列車を降りると 

木々の向こうの山に高速道路の明かりが首飾りのように連なり

空には満天の星が輝く 

庭で野菜を作り始めると 

すぐ元気な母に戻った 

庭先によく現れる猿の家族に 

「分けて食べればちょうどよかたい 」

楽しそうである 

その母が90才を目前に死んだ

7年住んだ家を明け渡す日

8月の暑い日である 

房さんはひとり母の庭にいた 

母が毎日水やりをしていた水道のコックが 庭の隅で光っている 

近づいてそっと両手で包むと 細くゴツゴツした母の手がまだ そこにはあった 

「母さん...」

庭先には さるすべりの木がピンクの花をゆらりゆらりと揺らしている

土手では 朝顔やヒマワリが 涼しい顔でゆらゆら

母がいたときと同じである 

「花や木は 話しかけると返事をするばい」

ここにも母がいる 

「ありがとう 母と共にいてくれてありがとう 」

この庭の花1本1本が

どんなに老いた母を慰めてくれていただろう

寄り添ってくれていただろう

感謝せずにはおれない 

とその時 バックの中の携帯電話がなった 

ここは 電波が届かないはずなのに

「おかしいな」と思いながら 

バックから取り出したら消えた 発信は姉になっている

しかし 姉の発信記録はない 

「不思議なこと」である 

きっと母が 

「ここでみてるよ」と合図をしてくれているのだろう 


90年間「 この世」という空間と時間のなかに生き ある日忽然と時をすりぬけ 何処へいってしまうのだろうか

肉体だけ残して…

無限の宇宙のなかの「この世」というスポットに何のために立ち寄ってきたのか

輪廻転生するならば 何回でも訪れるはず その意味は?


全てひとつ 愛の粒子

 

                                

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